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「カマライラブが侵入してきただと!?」 |
結局、ハクヤがシュエリと接触を持てたのは就寝前だった。 海蛇の侵入口という嬉しくもない称号を頂いてしまった小部屋に戻り、濡れたシーツを新しいものに取り替えていたシュエリは、帰室したハクヤを見るなり悲痛な声をあげた。 「ごめん! ごめんなさい!!」 突然の謝罪に、ハクヤは驚いてシュエリの肩を両手で抱いた。 穏やかに先を促す。 「お前が謝るべきかどうかは、俺が事情を聞いてから判断するから。不必要に謝罪しなくていい」 「でも、謝りたい」 ハクヤは困ったように微笑して、シュエリを抱き寄せた。 「あのな、大抵お前が謝りたいときって、お前に非は無いのな。俺が謝って欲しいなーって思うときほど、お前って謝らないのな」 申し訳なさに少し白くなった顔を上げて、シュエリが尋ねた。 「・・・謝って欲しいときって、どんな」 「そりゃ、中々夜の相手してくれないときとか」 「ば・・・ッ」 青年の軽口に思わず緊張がゆるんだ少年は、不覚にも少々潤んでしまった瞳を隠すように、ハクヤの胸元に顔を埋めて言葉を続けた。 「・・・ああ、やっぱり死神さんのお世話になっちまってたか」 「うん・・・。せっかくハクヤに海賊の仲間になるなんて茶番までしてもらってここまで来たのに。僕のために苦労してもらってるのに、僕のせいでぶち壊すことになって・・・」 うつむいたシュエリを寝台に座らせ、その隣りにハクヤも腰を降ろして、か細く綴られる懺悔に耳を傾けていた。 「だが、別にぶち壊しってことじゃねえだろ。広間の様子じゃ、サージェはお前がソウルイーターを持ってるってことは内緒にしてくれるみたいだし。 事を荒立てたくないからこそ、その紋章を隠しているだけで、完全な秘密って訳じゃねえんだから。 逆に、あの兄ちゃんを見殺しにしてたら、許せねえけどな」 まだ反論しそうな雰囲気のシュエリを遮って、「それに」とハクヤは先を続けた。 「俺は、俺のためにここまで来って思ってる。お前のためだけじゃない。それは、この旅を始める前に散々言っただろ?」 「・・・・・・そうだけど・・・でも・・・」 ますます俯いてシュエリはつぶやいた。 「海蛇倒すのだって、僕がもう少しうまく立ち回ったらとか・・・僕がハクヤだったら、もっと別の方法を見つけたんじゃないかとか・・・」 ハクヤはポン、と手を打って 「あ、それはそうだな」 「ハクヤ・・・っ」 シュエリは悲痛な声を上げた。 「けどまあ、お前は自分にできる最善の方法を取っただけだ。それでいいじゃねえか」 「・・・・・・」 まだ納得が行かない様子のシュエリをそっと抱き寄せて、ハクヤは生真面目な声で言った。 「そんなに反省したいなら、俺に誠意を見せてくれよ」 「ん・・・・・・どうすればいい・・・?」 沈んだ面差しで見上げてきた少年に、盗賊はおどけた様子で応じた。 「たまには、お前からキスしてくれるとか」 少年は、途端にじっとりとした眼差しで青年を睨み、 「・・・あのね・・・僕は真面目に・・・っ」 「俺も大真面目。これで結構、何でも許せてしまえるようになるってこと、お前もそろそろ覚えろ」 「そんな卑怯な技、生涯いらない!」 眉をつり上げた少年の言葉を堂々と無視して、ハクヤは自分の唇を指差した。 「ココ。ココな?」 そのまま、子供のようにワクワクとした表情で目を閉じる。 「・・・バカ・・・」 頬を赤らめて困ったように、それでも少しずつ鼓動を高鳴らせて、シュエリはハクヤに自分の唇を近づけた。 ハクヤの吐息を間近に感じ取り、若く逞しい口元にそっと触れようとしたそのとき。 「夜分、邪魔するぜ」 いきなりノックもせず、ジグドが入ってきた。 「!」 「ちょいと、相談事があってな」 大慌てでハクヤから離れようとしたシュエリだったが、逆にハクヤがグイと引き寄せ抱きすくめた。 「ちょ・・・ッ」 「お楽しみを邪魔した罪は大きいぜ?」 盗賊の青年は不敵に笑って海賊の統領を見上げた。 −続く− |
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