宴と呼ぶにはほどがある。
頭上と扉の向こうに、こちらを伺う不逞の輩を従え、どうして自分の恥ずかしい姿を披露しなければならないのか。シュエリは目眩いがした。
だが、ここで弱音を吐いて、後からハクヤに「あれっぽっちの演技もできねえのか。やっぱりまだまだガキだな」などと呆れ半分、からかい半分で笑われるのも正直、癪だった。
自分だって、外見は16そこらだが――成人しているのだ。右手の呪われた紋章が、肉体から刻を奪ったからこそこんな成りをしてはいるが、そこらの生娘とは訳が違う。
とはいえ、今は生娘を演じなければならないのだが。
「い、嫌です――無体は、無体はおやめ下さい・・・・・・」
だが、・・・やってみると、これが中々難しい。
なにせ自分の躯は快楽というモノを知っている。シュエリにそれを刻んだのは他の誰でもない、今、自分を組み敷いているハクヤだ。反応するなという方が土台、無理な話なのである。
「悪ィけどな、お姫様。そういう台詞は男を喜ばせるだけだってこと、教えてやるよ・・・」
しかも悔しいことに、ハクヤはこういう悪党然とした振る舞いが妙に魅力的なのだ。
シュエリの白くか細い首筋に唇を落し、斜に構え艶を帯びた声でハクヤは睦言をつづる。
「・・・ぁ・・・う・・・」
普段とは違う雰囲気の声も、台詞も、シュエリの心臓を予想外に高鳴らせた。
ハクヤの不埒な舌先が生き物のようにシュエリの鎖骨を伝い、胸元に降りてきて、小さな尖りを見つけると、それには触れずその周りをゆっくりなぞる。
「・・・ん・・・っ」
初めての娘が甘い悲鳴なぞ漏らすはずがないと分かっているので、なんとか快楽を頭の隅に押しやろうとするのだが、それでも漏れてしまう吐息はどうしようもない。
恨みがましいシュエリの視線を気にも留めず、
「柔らかい肌だな・・・思ってた以上に上玉で嬉しいよ」
言いながら、ハクヤはシュエリの胸の果実に軽く歯を立て、ちゅく、と音を立てて吸い上げた。
「ア・・・・・・!」
思わず声が高くなる。
「や・・・やめ・・・ぁ・・・」
ソウルイーターのおかげで、シュエリがまだ完全に声変わりを迎えていなかったのは好都合だった。一般的なこの年頃の少女達よりは低めの声であったが、もしかすると、本物の娘よりも澄んだ艶のある心地よい嬌声かもしれない。
ハクヤの逞しく形の良い手が、シュエリの脇腹に羽を落とすような微妙な愛撫を施しながら、少しずつ下の方へ降りていくのが分かる。
「な、なにとぞ・・・無体は・・・・・・」
自分のか弱げな台詞も、まるで他人のもののようだ。
白絹の衣装の裾をかきわけ、不埒な悪党の手は少年の最も大切な部分を探り当てた。与えられる快楽に慎ましく立ち上がりかけている、まだあどけなさの残る印。
ハクヤはそれを、試すようにゆっくりと握りこんだ。
「あ・・・う・・・・・・っ」
華奢な躯が跳ねる。
そのまま、あやすように何度もゆるゆると握り直す。
「・・・く・・・う・・・っぅ・・・」
達せさせられてなるものかと、気丈にハクヤを見返すシュエリ。
男のように乱暴な抵抗をする訳にはいかない。何せ自分は脅える貴族のお姫様なのだから。
ともすれば快楽の縁に沈みそうになる意識を励まし、シュエリは自分を組み敷いているハクヤの腕に、手加減無しに爪を立てた。
「・・・ッ」
己を見下ろすハクヤの端正な顔が、微かに歪む。
――これ以上続けたら、噛みついてやる!
射貫くようなシュエリの視線を受けて、盗賊は小さく不敵に笑んだ。
ハクヤはハクヤで、結構忙しかった。まあ、この不遜な悪党は、その忙しさを楽しんではいたのだが。
頭上から覗かれているのは分かっていたから、とにかくシュエリが男であることを知られないように抱かねばならなかった。
薄い胸は、まあいい。幼い躯だと言い切ればまかり通る。女の胸は寝かせると結構沈むものだ。今の事情を分かっているシュエリなら、胸元を解放したら手で覆いでもしてくれるだろう。特に演技をせずとも、恥じ入る少女らしい仕草に見えるはずだ。
問題は、下腹部の――。容姿や声こそあどけなさが残るシュエリだったが、男としての印は、しっかり成長を遂げている。順調に成人していたら、さぞ多くの女を甘く啼かせたに違いない。
・・・啼かせる前に、俺がかっさらってしまったのだが。ほんの少し罪悪感を感じなくもない。
「あ・・・う・・・・・・っ」
抗うか細い腕。甘い闇に飲まれつつも、貫くように見上げて来る視線。ぴんと張った竪琴の弦のような強さ。
かすかにわき上がった良心の呵責も、シュエリの艶姿を目にした途端、どこかへ追いやられてしまう。
(結局、色っぽいこいつが悪いんだよな)
などと、ふと不埒にも自己正当化してみたりして。
「・・・く・・・う・・・っぅ・・・」
眉根を寄せて耐えつつ、何とか悪党から逃れようと、シュエリは自分に柔らかく触れて来るハクヤの腕に、思い切り爪を立てた。
「・・・ッ」
強い意思を乗せた眼差しが、次は噛みつくと主張している。
ぞくぞくする。この少年のこの気の強さが、ハクヤの征服欲をそそる一因なのだ。
「――いいぜ。逃げてみな、お嬢ちゃん・・・」
不意に、シュエリを組み敷いた腕をほどく。
一瞬いぶかしげな面持ちを返した少年だったが、次の瞬間には素早く背を向けて寝台から這い降りようとした。
だが、慣れぬ女物の衣装の裾が絡まり、とっさに足が出ない。
その瞬間を捉え、背後から悠然と獲物に迫ったハクヤは、そのまま抗う背に腕を落とし力ずくで寝台に引き倒した。
「ア・・・ッ!」
小さな悲鳴。それでもまだ逃げようともがくシュエリの足を力任せに押え、うつ伏せに組み敷いて馬乗りにまたがる。
「い、いや――放して・・・ッ!」
怒りに爪を立てる細い腕、脅えに震える足先。
「本気で逃がすと思ったのか・・・? 中途半端なまま終わらせるなんて野暮、お姫様もお嫌だろう・・・?」
言いながら艶やかに薄く笑う。
どうしてこの男は、こんな不遜で鷹揚な態度がこれほどまで板についているのか。
しかも悔しいことに、風に吹かれる強く逞しい弦のようなその声は、耳から入ると何よりも抗いがたい媚薬の音色を含んだ。
自分の中にわき上がった雑念を追い払おうと首を振るシュエリをよそに、ハクヤは背後から素早く獲物の滑らかな胸に手のひらを滑らせ、迷うことなくその尖りを見いだして指先で転がした。
「あ・・・あぁッ・・・」
盗賊の腹の下で、白い背が小さくのけ反った。
「や・・・め、お許し――をぉ・・・っ・・・」
艶やかなシュエリの悲鳴を心地よく聞きながら、ハクヤは考えをめぐらす。
こうしてうつ伏せにしておけば、薄い胸も、立派な印も、覗き屋達からは見えなくなるはずだ。
あとは・・・・・・
(どこまでするか、だよな・・・)
盗賊の青年は心の中で小さくため息をもらした。
シュエリは勘違いしているが――正確には、勘違いさせるように仕向けたのだが――元々ハクヤは最後までする気は無かったのである。
こんなあられもない姿態をシュエリは他人に見られたくないだろうし、ハッキリ言えば、ハクヤだって好き好んで愛しいひとの艶姿を、どこぞの下衆どもに見せて(聞かせて)やりたくはないのだ。
独り占めしたい。
シュエリをいじめるのも、味わうのも、ただ自分のみに許された特権だ。誰が譲ってやるものか。
戸口に控えている出歯亀野郎達も、天井でこちらの素行を伺う統領達も、みぃんな自慢の真の火の紋章で丸焼きにしてやりたい気分だったが、『あれ』を手に入れるまでは大人しくせねばなるまい。
胸中で歯噛みする。
シュエリにどこまでするのかと問われたとき、挑発するように人の悪い笑みを返したのは、本気で抵抗させるためにすぎない。
快楽を知らなかった少年の躯にそれを教えこんだのは自分だったし、今さら感じないフリをしろといっても土台無理だと分かっていた。抵抗しようにも、敏感なシュエリのことだ。慣らしたハクヤの手で愛撫を始めてしまっては抗いようがなくなることも。
だからこそ、わざと怒らせるように仕向けたのだが――
少年の背を抱き寄せ、そのうなじに舌を這わせる。
「あ・・・、いや・・・ぁ・・・っ」
すぐに返って来る、甘いいらえ。
こんな声を聞かされながら、自分は冷静に我慢しなければならないのは、ハクヤにとっても酷い拷問だった。
みていろ。このヤマが終わったら、お前を存分に頂いてやる。今夜、遂げられなかった熱も想いも全て思うままぶつけてやるから――
胸を弄ぶ手はそのままに、もう片方の手も前方へ回し、先ほど高ぶらせたままだったシュエリの印にもう一度強く触れる。
「あ――う・・・っ」
吐息を漏らさぬようにシーツに顔を埋める少年。そんな仕草も、ハクヤの芯に熱を走らせた。
根元から先端まで、手のひらで包み込むように行き来し、敏感な裏側を擦る。
「ん・・・んん・・・っ」
快楽にわななくシュエリの印は堪え切れず先走りの蜜を宿し、挑発するようにハクヤの爪先を湿らせた。
覗き屋達から見えぬようにするためか、姿勢を一定に保たれ、ハクヤが触れて来る場所も限られてしまっているのだが、それがまたシュエリに切ない熱を呼び起こす。
「あ・・・、も・・・ぉや・・・ッ」
ともすれば、ねだりそうになる自分を何とか律するので精一杯で。
いつもならとうに、愛しい青年の逞しい肩に腕を回し、相手も存分に自分の名を甘く呼んでくれているはずだ。
そんなシュエリの想いをくみとったのか、ハクヤも背から柔らかく少年を抱き寄せた。
その温かな躯を堪能するように、少年の首筋に頬を寄せる。
「う・・・ぁ・・・っ、あ・・・」
慎ましく震える腰も、反る背も、艶の宿る吐息も、全てがハクヤの到来を待つ証し。
羽化を始めた蝶が、濡れた羽をゆるゆると伸ばし、来る空を待つような――。
(いい眺めなんだが・・・)
普段ならもっと焦らして獲物の艶姿を悦しむのだが、覗き屋達も控えていることだし、この辺で終わりにしなければならない。
・・・何より、俺が我慢できなくなってしまう・・・。
ハクヤはシュエリの耳元で、
「初めてなのに免じて、今夜は慣らすだけで許してやるよ・・・」
甘い吐息混じりにささやくと、彼の自身を包むように緩く強く何度も握り、先端を指先で弄んだ。
「う・・・・・・ぅっ」
飲み込まれてゆく悲鳴。背後からでも、時折見え隠れするシュエリの目尻に雫が宿っているのが分かる。
自分でも酷い扱いをしていると思う。
詫びは後で入れるから――いや、二、三度は蹴られるかな?
ハクヤは苦笑混じりに腕の中の愛しい獲物を抱きしめると、導くようにその敏感な先端に爪を立てた。
「ア、あ――・・・ッ!」
堪えながらも、ハクヤの腕の中で雛鳥のように身を震わせシュエリは頂点を結んだ。
ひときわ艶やかな声と、自分の手を濡らした感触に、ハクヤ自身も一瞬目眩いがした。
「は・・・」
シュエリを強く抱きしめて、何とか己の熱を追いやる。
荒い息を整えようとするもかなわず、余韻に身を委ねてしまいそうになる少年の仕草も、愛しさと共に毒を呼び覚ます。
抱く腕に力を入れすぎているかも知れないという自覚もあったが、このまま抱いていたかった。
――シュエリ・・・・・・
名を呼べないもどかしさ。
名を呼ばれない淋しさ。
「う・・・う・・・っ」
目尻を押えて涙を堪える少年に、心の中で何度も「愛している」と祈りを乗せ、ハクヤはもう一度、シュエリを強く柔らかく抱きしめた――。
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