「抱いてよぉ・・・」 ランタンを持ったまま身じろぎ一つしない相棒の正面に回り込み、ジタンは焦れたようにひざまずいた。 うっとりと、ズボンごしにブランクの自身に頬ずりする。 「オレのコト、欲しいんだろ・・・?」 夢魔のように誘うジタンの赫い眼差しは凄絶な艶を湛え、その瞳は幽玄の世の入口のよう。 「な・・・?」 ジタンはその右手でねだるようにブランクのものを布ごしに探り、空いた左手を自らのズボンの中に差し入れ、己自身をゆっくりと弄った。 「・・・ぁんっ・・・ブランク・・・ぅ・・・」 少女のあどけなさが残るジタンの顔が、快楽を得ることに背徳を感じない子供さながらの無垢な――それゆえ頽廃的な――色香に支配されていく。 ブランクはジタンと同じ目の高さまでひざまずき、彼を静かに抱きしめた。 「ブランク・・・早くぅ・・・」 己を抱きしめるブランクの腕の温もりを堪能しつつ、ジタンがゆっくりと彼に口づけようとしたそのとき。 「・・・俺の相棒も、ここまで可愛げがあったら苦労しねえのにな」 ジタンが驚いて、赫い瞳を大きく見開く。 「ブランク・・・?」 「俺が盗賊じゃなかったら、抵抗無くこのままお前を頂けるのに・・・今回ばかりは、さすがの俺も心の底から惜しいと思うぜ」 一閃。 ブランクは背負った長剣を抜き払い、目の前のジタンを斬りつけた。 そこにいたはずのジタンの姿はにわかに掻き消え、辺りはまた、ただぬばたまの闇が広がるのみとなった。 消える瞬間、ジタンは少し安心して微笑んだように見えた。 <なぜ・・・? 夫婦たる証を見せよと命じたら、この少年と寝ようとしたではないか> それは、「夫婦の間」で直接意識に入り込んで来た母神を思わせるあの声だった。 「・・・若いんだから勘弁してくれよ。俺が奴に飢えてたのは認めるぜ。でも――」 雄々しく、それでいて挑戦的な眼差しで闇間を射貫きながら、ブランクは晴れやかにこう告げた。 「盗賊ってのは、一度狙いをつけた『宝』のことは、何があっても見間違えねえもんさ」 * * * 衣擦れの音。 衣服の上から執拗に己を煽るブランクに、ジタンは精一杯の講義の視線を向けた。 「そ・・・そんなにヤりたいのかよ・・・ブランク・・・っ」 「欲しがってるのは、お前の方じゃないのか?」 いよいよ器用な指先が、白い肌着をたくし上げ、脇腹に直に触れる。ゆるりと撫でる。 「は・・・」 ブランクの淫らで生き物のような舌は、ジタンの形の良いへそを探し当てると、ピチャ、と軽快な音を立てて舐めあげた。 そのまま舌先で、中心を何度もつつく。 「あ・・・ぁ・・・っ」 のけぞる白磁の首筋。 「へそと、下の口は、同時に攻められるのがイイんだったよな・・・?」 言いながらブランクは、ジタンのズボンを少しずつ降ろしてその腰を持ち上げ、逞しい手のひらを柔らかいが鍛えられ引き締まった尻の方へ、ゆっくりと滑らせていく。 「ブランク・・・っ」 不埒な指先が、ジタンの下の口のありかを探る。 蕾にゆっくり近づいてくるのは、まず中指だ。 その後に、人差し指が続いている。 目で確かめたわけでもないのに、どれがどの指なのかジタンにははっきりと分かった。 ブランクの指が彼の若い年齢に見合わず、がっしりと堅く雄々しいことを一番よく知っているのは、今ちょうど攻められようとしている蕾の中だ。 戦慄が走る。 「入れるぜ・・・?」 「ブランク・・・悪ィけど、そろそろ限界なんだよな・・・」 ジタンは逃げるように腰を引き、 「これ以上されると、こっちも我慢できなくなっちまう」 と、少し目をそらして苦笑した。 「オレ・・・、あんたが可哀想だと思ってる」 ブランクは己の手を止め、腹の下の獲物を見た。 「・・・どういう意味だ?」 「どうしたら満足してくれる? オレには相手がいるからさ、Hとかキスとかは無理だけど・・・多少なりと、あんたの力になれないか?」 「・・・俺の正体に気づいているのか?」 ジタンは自分の乱れた衣服を直すこともせず、そのまま正面からブランクを見上げて、告げた。 「<契り>の秘宝が視た――過去」 「最初はさ、秘宝の番人かと思ったんだ。このままオレが抱かれたら、秘宝を受け取るに相応しい者ではないと判断されるんだろうなって。でも――」 ジタンは遠くを見つめるように、視線を飛ばした。 「あんたから・・・明らかに愛情を感じたから。本当に抱きたいのはオレじゃないだろ? オレに誰かを重ねてるんだ。後ろ向くなって言わないけどさ、グチくらいなら聞ける」 ブランクは――いや、ブランクの姿を借りた「それ」は、静かにジタンの躯から離れ、少々晴れやかな顔をして・・・消えた。 <かの者は兵士だった。ここに来て――相方の女兵士と妾(わらわ)に会い、敗北した・・・> 例の母神のような声だった。 <君主の命を受け、女兵士と共に、ここの秘宝を奪いに来た者。だが、実際に愛しあっている者同士の前にしか、妾は現れぬ。かの者と女兵士とは懇(ねんご)ろの仲だった。 そこで妾は、夫婦たる証を見せよと問うた――。 お前達には、この部屋の中に寝台を見せた。 彼らには・・・互いに相手の死体を示したのだ> ジタンは成る程と頷いた。 「どちらかが突然に死ぬ可能性があるを分かっているか? と聞いたわけだ。兵士という職業は、常に死と隣り合わせだから」 <男はそのとき、急に戦場が恐くなった。彼女と結婚するなら、兵士を辞めた方が良いと考えた。 しかし、女の方は戦士を続け、仮に男が死んだら後を追うという結論に達した> 秘宝の声は、少し淋しげに響いた気がした。 <妾は将来を示す。夫婦として決定的な選択を迫られたとき、双方の意思が同じ道を歩むことを選べるか――それを尋ねるのだ。 その条件さえ満たせば、妾はその夫婦となる者達に祝福を贈る。多くの場合、子を授ける> 「満たせなかった者達には?」 <何もせぬが・・・大抵の者は、婚儀の意思を取り下げる。それだけのことだ> ジタンは小さく溜め息をついた。 * * * 「盗賊として――オレにはあれを盗むことは出来ないな。ありゃ秘宝でも何でもない。道標だ」 ブランクとジタンは、ふと気がつくと、もとの「夫婦の間」にいた。 暗闇の中、互いにそっくりな相棒に躯を求められたなんて夢のようだった。 壊れかけた寝台すら、そこには無かった。床も抜けていない。 あるのはただ粗末な祭壇のみ。 そして――いつの間にか、その祭壇の上には小さな木彫りの女神像が飾られていた。初めてここに来たときには、無かったはずなのに――。 恐らく、これが二十一番目のアリャルカの秘宝<契り>なのだろう。 「珍しく意見の一致を見たな」 ブランクの結論もジタンと同じだった。 「盗むべきじゃねえな。この宝は、このコンデャ・パダの結婚を司る祭壇にあってこそ、一番価値が出る・・・」 そして、ジタンとブランクは、声を合わせて厳かに謳った。 「『盗賊の仕事は盗みじゃねえ。宝の価値を見分けるのが、真の盗賊だ。盗賊は何より宝を愛する鑑定士でなくちゃなんねえ』」 二人の若い盗賊は、同時にアハハと笑った。 「幼い頃、ボスがいつもオレ達に言ってたよな」 今回は手ぶらで引き返しても、咎められはすまい。 いや、秘宝を手に入れた方が、こっぴどく仕置きをされそうだ。 「――帰るか」 ジタンが軽やかに立ち上がると、彼の相棒は少し不敵に笑って、挑発するように告げた。 「俺の見たニセのお前、可愛かったぜ。色っぽく俺に甘えてきてな・・・」 ジタンは少々憮然として、 「オレの見たブランクも、カッコ良かったぞ。少なくともあんたより誘い上手だった」 「じゃあアジトに帰ったら、俺の方が魅力的だって思い知らせてやるよ」 言うが早いか、ブランクはジタンを引き寄せると強引に口づけた。 オレの方こそ、ニセ者より万倍いいって分からせてやる、と言いかけたジタンの言葉は、ブランクの逞しい唇によって飲み込まれたのだった。 −続く− |
・・・もうちょっとだけ続く・・・と言いながら、 まだ続きます(^^; 次回こそ完結です。 まだ描いていないエピソードと、 さんざんさわりの部分だけ入れて、 全然本番まで行けてない、アノ場面(^^;を ちゃんと描こうと思います♪ |
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