ドワーフの統べる里、コンデャ・パダ。 盗賊稼業の関係で、奇しくも結婚の儀を執り行ったジタンとブランクは、その次のステップに閉口していた。 「・・・ヤるのかなあ・・・」 「・・・ヤるんだろうなあ・・・」 「・・・夫婦の誓いって、エッチだけじゃないと思うけどなあ・・・」 ジタンはため息をついて、肩をすくめた。 「ましてや、こんな・・・誰が見てるかも分かんないような・・・おまけに、あぁ、声も漏れそうな場所でかよ?」 妙に気まずく、だが、お互い顔を赤らめて押し黙った。 「・・・うーん、こうは考えられないか? 逆説的にさ、わざとエッチしないんだ。端的にカラダを求めるだけの間柄じゃないって証明するとか」 精一杯の言い訳をジタンは考えたが。 「こんな辺境の未開の地でか? トレノとかじゃともかく、ここじゃ性行為って子孫繁栄とか、新たな労働力確保以外の意味を持たなさそうだぜ」 ブランクも(若干の己の下心を見抜かれないように)慎重に考えを述べた。 「それじゃ、男女じゃないオレ達には土台、無理な話だぜ」 「何はともあれ、ヤるだけヤってみるとかよ。・・・どーしたよ、いつもなら即断即決即実行のジタンさんが、なに二の足踏んでんだ?」 う、と一瞬、言葉に詰まった後、頬を少々上気させてジタンがかみついた。 「決まってんだろ、鈍感な奴だな! そういうのを、仕事でしたくないって言ってんだ!」 あ、とブランクは頭を掻いた。 どうやらジタンも、中々甘い考えの持ち主らしい。 「確かに・・・理想は・・・そうだよな・・・」 ジタンは一呼吸おいて、乱れる心の旋律を落ち着かせながら続けた。 「・・・ただでさえ、あんたとの馴れ初めが仕事がらみだったからさ・・・今後はそういうの、ナシにしたいんだよな・・・」 情熱的なジタンの本心を知って、何だかブランクは嬉しくなった。 自分もたいがいとは思うが、どうもこの相棒は淡白で、自分のことを好いてくれてるのか時々疑いたくなるのだ。 だが、今はそんな愛情を確かめあっているときではない――盗賊を自称するなら、なおのこと。 ブランクがジタンを説得しようと口を開いたそのとき、ジタンも相棒のその意図を察して、自ら口火を切った。 時折、紫がかるその瞳に少々の迷いの色は残っていたが、すぐにそれを押し切って、 「悩んでても始まらねえ。プロなら割り切って仕事しなきゃなんねえよな。可能性がこれしかないなら、なおさら――」 ジタンは古びたベッドの上にゆっくりと腰かけ、 「とりあえず、オレの本心は聞いてもらったからイイや。さ、煮るなり焼くなりやってくれ!」 と、ブランクを正面から見据えて、誘った。 「どうにも、そう構えられると襲いにくいんだが・・・」 ブランクはその視線を少し泳がせたが、ここしばらくご無沙汰していたジタンの躯だ。欲しくないはずがない。 ベッドに腰かけてるジタンの前にひざまずいて、彼の襟元のリボンに唇を添えた。 軽く噛んで、口でほどく。シュル・・・と軽快な音を立てて、床に舞い落ちる。 ついで、幾分ゆるくなった襟元から除く白い首筋に、はやる心を押し隠して軽く口づける。 「ん・・・」 耳ではなく、その周辺。幾度かの行為で学んだ、ジタンの急所の一つ。 「とりあえず、もう手加減しなくていいよな」 「・・・手加減?」 さも意外そうに、ジタンが切り返す。 「今までにそんなことしたか、お前」 「これでも俺は紳士だぜ」 「初耳だ。・・・っていうか、手加減してたなら――」 クス、と面白そうに笑って、 「願い下げだ」 とジタンはブランクの背に両腕を回した。 そのままブランクはジタンをベッドの上に横たえ、彼に覆いかぶさるように自らの体重もベッドに預けた、まさにその瞬間――。 二人の重みに耐えきれず、ベッドとそれを支えていた床が悲鳴を上げて崩壊し、彼ら二人は床を突き破って階下に転がり落ちた。 ぬばたまの闇。 ここは神殿の地下か? 「夫婦の間」から床を突き抜けて落ちて来たブランクは、せっかくのジタンとの情事にお預けを食らって、いつもにもまして仏頂面で周囲を見渡した。 「ジタン!」 相棒の返答はない。 さては、打ち所が悪く気絶でもしたか。 気を失っているジタン相手にコトを遂げても何ら面白くないから、まず起こしてやらねば――と不埒なことを考えながら、闇の中を手探りで探す。 ほどなく、ジタンとおぼしき柔らかな物体に手が当たり、そのまま、オイと揺さぶってみた。 「ん・・・・・・」 ゆっくり目を開けるジタン。いや、闇で見えたわけではないから、そんな気配がしただけだが。 「あ・・・ブランク。ちょっと待ってくれ、今ランタンつけるから」 「どこにあったんだ、そんなもん」 「ベッドの脇にあったのが、一緒に落ちて来たみたいだ。壊れてなきゃいいけど・・・」 ジタンがランタンを見つけたというよりは、いきなりランタンがそこに出現したかのように感じた。 いや、それより、たった今までジタンは気絶してなかったか? いつランタンを探しだしたんだと思ったが、とりあえずその疑問をブランクは頭の端に追いやった。 ほどなく、ランタンのほのかな明かりが、暗闇にジタンとブランクの二人を浮かびあがらせた。 これで照らせるのはせいぜい2、3メートル先までだが、夜目のきく盗賊二人には充分。 お互いの無事を確認すると、ブランクは自分達が落ちて来た天井を見返った。 「・・・? どこから落ちて来たんだ、俺達。天井にも穴がねえぞ?」 見ると天井も真っ暗闇。「夫婦の間」に入ったのがまだ昼だったことを考えると、今はまだせいぜい夕方のはず。なのに太陽の存在を感じない。 呪術的な仕掛けで、別の空間にでもとばされたんだろうか? 「とりあえず、出口を探すか」 身軽に立ち上がってブランクが歩きだすと、ジタンが後ろから静かに抱きついて来た。 ゆるりと、その手をブランクの股に滑らせる。 「おい、何の冗談だ?」 いきなりのジタンの大胆な行為に怪訝な顔で振り返る。 そこには、紫水晶の瞳をより赫く染めて蠱惑的にブランクを誘うジタンがいた。 「さっきの続き・・・してくれよ・・・今ここで・・・。ガマン出来ないんだ・・・」 * * * 「ち、ちょっと待てよブランク! お前、今がどういう状況か分かってるか? 一刻も早く、この薄気味悪い暗闇から抜けださなきゃ危険なんだぜ!」 「いいだろ、ジタン・・・ここしばらくご無沙汰だったんだぜ・・・? 俺、お前のこと食いたくて仕方ねぇんだよ」 「夫婦の間」の床の崩壊で、突然闇ばかりの空間に投げ出されたジタンは、側で倒れていた相棒を急いで起こし脱出を持ちかけた。 が、その相棒にいきなり組み敷かれ、躯を求められたのだ。 「淡白なあんたが積極的になってくれるのはイイ傾向だと思うけどよ、何も今ここでサカらなくてもいいだろ!?」 「お前だって俺のこと欲しかったはずだぜ? 女は口説けても、俺にねだるのは照れ臭くて出来ないみたいだからな。・・・ったく、本気の相手には、とことん不器用になるタイプだろ?」 図星をつかれて一瞬、頭が白くなりかけたが、さても尋常な仕儀ではない。 力で押しのけられないものかと、ブランクの腹の下で暴れてみたが。 「無駄だって。純粋に腕力だけなら俺の方が上だし、何より――俺にこうやって組み敷かれたら、それだけで力が抜けちまうんだよな? ジタン?」 可愛いぜ、と鍛えている最中の熱い鋼のような、それでいて滅多に聞くことのできない甘やかな声色でもって耳元で囁かれ、ジタンの腰が熱を帯びた。 「ブランク・・・よしてくれ・・・」 揺れる瞳で哀願するが、そんなジタンの様子などおかまいなしで、ブランクはその手をジタンの胸元へ滑らせた。 衣服の上から胸の尖りを探し当てると、からかうように弧を描く。 布ごしのもどかしい愛撫が、ジタンの飢えを駆り立てた。 「あ・・・ブランク・・・っ」 ねだるように、ジタンの腰が、足先が、尻尾が、小さく震えた。 そんな獲物の痴態を、ブランクの鋼の瞳だけが面白そうに見下ろしていた。 −続く− |
もうちょっと続きます〜(^^; 長めのお話の方が描きやすいタイプで・・・、 だらだらと続けてしまってスミマセン(><) |
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