† 最後から二番目の秘宝 −前夜−



「ブランク殿とジタン殿――ダドね?
 では、こちらの部屋で夫婦の契りを行うんダド」
 あたかも精霊が宿っているかような、素朴な中にも荘厳な雰囲気をたたえた木造の神殿の一室に通されて、ジタンは、何でこんなことになっちゃったかな・・・と、ここ数日の軌跡を反芻した。

   *  *  *

「アリャルカ二十二の秘宝?」
 快晴。まさに蒼が天を穿(うが)つ夏。
 霧機関の都リンドブルムは、その民と同様、活気に満ちた機械の音色を朝から響かせていた。
 ここは劇場街・盗賊団タンタラスのアジト。
 バクーの招集を受けたジタンとブランクが、ボスのリドル(謎かけ)を真っ向から受け止めていた。
「それを奪ってくりゃいいんだな?」
 ボスの真意を探るように、慎重に応じたのはブランク。
 氷河のように鋭く雄々しい視線が野生の狼を彷彿とさせる、緋に燃ゆる髪を持った少年だ。
「おう。ちょっとワケありで、おめえとジタンの二人で行ってきてもらいたい――ヘップション!」


 アリャルカ二十二の秘宝。
 今日、よく占いに用いられる小道具に二十二枚組みの「タロル・カード」がある。
 アリャルカの秘宝とは、そのカードのデザインのもとになった伝説のお宝だ。
 それぞれがどんな形状でどんな魔力を秘めた宝物かは定かではないが、語り部(かたりべ)達の伝承によると、タロル・カードと同じく<予言師>に始まり<永遠>までの二十二の称号を冠せられた、精霊の宿るアイテムらしい。
 タロル・カードと異なる点は、必ずしも「カード」の形で無いことだった。
「なんでまた、そんなものが欲しくなったんだ?」
 至極、当然の問いをしたのはジタン。
 中性的な容姿の中にあどけなさが残る、夜半の月が似合いそうな儚げな金髪に彩られた風采は、持前の元気の良さでまさに太陽のように輝いていた。
「トレノのある貴族様が莫大な賞金をかけててな。二十二の秘宝のうち、どれでも一つにつき50万ギルで買取ると言ってる。正直、今プリマビスタの補修費用が底を尽いててよ、その足しにしたいってわけだ」
 彼らのボスは豪快な笑みとともに説明したが、その物言いにブランクもジタンも妙に引っかかるところがあった。
「まあ、ボスの命令なら異存はねえが・・・。秘宝のうち、どれか一つ持ってくりゃいいんだな?」
「そういうことだ――だが、二十二もあると目移りしちまうだろ。何せ、世界中に散らばってるお宝で、その情報も嘘や噂から始まって大陸全土を駆け巡ってる」


 その中でも、一番確実な情報を得られたのが、辺境の儀式民族の里「コンデャ・パダ」に眠る、二十一番目のアリャルカ<契り>の秘宝。
 この場合の「契り」とは、小さな「約束」に始まり、人と人とが結ばれる「性行為」まで、多様な意味を占めるため、商談の成功や、伴侶との出逢い等を祈願されるカードとなっている。
 コンデャ・パダの里は夫婦が結ばれるということに大きな意義をおいているため、その神殿で祭られているのが恐らく、お目当ての秘宝に違いない、ということなのだ。
 こうしてジタンとブランクは、タンタラスのアジトを後にすることとなった。
 <契り>という少々照れ臭いながらも甘やかな名の秘宝を求めて――。

   * * *

「いやはや、秘宝が祭ってあるって神殿に入るためには、ケッコンしなきゃなんねえとはな! こっちとしては単なる下見だけで良かったのに、面倒なこったぜ」
 コンデャ・パダの神官の導きで神殿内の「夫婦の間」に通されたジタンは、ブランクと二人きりになったところで、大きく伸びをして周囲を見まわした。
 質素な作りの祭壇が扉の真向かいに祭られ、いくつかの調度品も飾られていた。
 その他には 「夫婦の間」の名に相応しく、大きな、だが儀式用の寝台が中央に鎮座ましましている。
 古びた作りで、実際にその上に寝たら重みで潰れるのではないかという年期の入った代物だったが、部屋の名前のせいで妙に艶っぽく見えたのもまた事実である。
 どうやら、この里では同性の婚儀も認められているようで、ブランクとジタンが神殿で結婚したいと掛け合っても何ら抵抗されることはなく、こうしてすんなり神殿内に足を踏み入れることができたのだが――。


 さて。
 先日の、タルミナ領主の依頼での「翡翠色の宝珠」事件以来、お互いを単なる盗賊の戦友としてだけでなく、恋愛対象として意識するようになってから一ヶ月。
 ブランクとジタンの仲に進展があったかというと――まあ、今までと大差は無かった。
 ジタンは今も可愛い女の子と見ればちょっかいをかけてるし、ブランクも淡白なもので必要以上に相棒を縛ったりすることはなかった。
 はた目には、恋人というより悪友といった方がしっくりくる、さばけた間柄――。
 直感と決断派のジタン、計算と慎重派のブランク、双方が互いを補う関係は今も健在だった。
 とはいえ、若い二人のこと。一度覚えた性行為の味は忘れられるはずもなく、仕事が一段落したときには、どちらからともなくお互いを求めたりもした。
「面倒か? これはこれで・・・面白い趣向だと思うが・・・」
 興味深そうに部屋を見渡してブランクが応じた。
 根の部分で妙にロマンチストなところのある若い盗賊が思わず漏らした台詞には、「最近ジタンとのナニがご無沙汰なので、結婚の儀式もまんざらではない」という本音が含まれていた。
「ブランクにしちゃ意外な反応だな。てっきり、くだらないって言うと思ったのに」
 小首を傾げたジタンが妙に幼く見え、ブランクは少々背徳的なものを感じたが、結局自分の考え方を変えるきっかけになったのは、誰でもないジタンなのだ。
「女以外のことには鈍感ときてやがる」
 ブランクはジタンに聞こえないよう心の中でそう呟いた。


「けどよ、問題の<契り>の秘宝がどこにもないぜ・・・。デマか、あるいは何かの仕掛けが――」
 ジタンが腕組みしつつ相棒に語りかけると、先程とは一転して獲物を求める盗賊の表情になったブランクが、素早く部屋の構造を目算した。
「・・・この祭壇の奥に、隠し部屋があると見た。神殿の造りが気になってたんだが、この「夫婦の間」の奥の壁、妙に厚かったろ? 何かあるぜ」
 ブランクが、祭壇に手をかざした瞬間、二人の意識に直接語りかけてくる声があった。
 やわらかな、海か母性を思わせるその声は、竪琴が厳かに響くかのようにこう告げた。
<・・・汝らが夫婦たる証を見せよ・・・・・・>
「わっ、何だ、今の声・・・?」
「・・・どうやら、お宝目当ての不埒な野盗が忍び込むことを計算されてるらしい・・・。
 真に「夫婦」たる者達だけが、この奥に進めるって寸法じゃないか?」
「はあ? 何だよそれ! 失礼なこったな」
 既に、自分がその不埒な盗賊だということをジタンは忘れているようだ。
「あっついチューでもしろっての?」
 ジタンは目に見えぬ声に問いかけたが、反応は無かった。
「キスだけで済むならいいが・・・」
 ブランクは自分の予想に高まる鼓動を必死に押さえつつ、相棒に部屋の中央を示した。
「・・・あの・・・ベッド・・・何のためにあると思う・・・?」
 ジタンとブランクの顔面は、二人仲良く絶妙のタイミングで、蒼白になった。

   * * *

 一方その頃、タンタラスのアジトでは。
「ボス! ブランクとジタンに<契り>の秘宝、取りに行かせたんやって?」
「耳が早ぇな、ルビィ」
 年の頃、十七、八。光の加減で薄いエメラルドの滝にも見紛うストレートヘアを、軽くかき揚げながら、ルビィと呼ばれた少女はバクーに問いただした。
 独特の言葉の訛りが、ある種のエキゾチックな魅力をかもし出している。
「ボスも人が悪いわあ。・・・やっぱり、二人を試してるん?」
 ガハハと豪快に笑って、バクーはルビィを見返した。
「女のカンは恐い恐い。ルビィ嬢ちゃんにはお見通しって訳か」
「最近のブランクとジタン、見てたら分かるんやもん。――もっとも、うち以外のタンタラスのメンバーは、全然気づいてないみたいやけど」
 バクーは、手元のパイプを引き寄せ、一服味わってから嘯いた。
「タルミナの一件以来、あの二人はデキちまったみたいだからな。
 ボスとしては、灸を据えてやらにゃならんようになった」
「相棒に必要以上の愛情を持ったら、盗賊としての判断が鈍るって奴やろ。――そんなん、あの二人はとっくに承知のはずやで!」
「わかってるさ。けどよ、一応あの二人には山を越えてもらわにゃな。
 今、ジタンとブランクが互いに持ってる感情が、今後の盗賊業にどう影響していくか――。
 盗賊として邪魔になるような要素になっちまう恐れがあれば」
 バクーはそこで言葉を切った。
 その眼差しは、まさに盗賊の統領たる、迷いのない厳しく強いものだった。
「ナンセンスやわ!」
 タンタラスを追い出すか、別れさせるかせにゃな・・・。
 バクーの最後の呟きは、たゆたうパイプの煙に掻き消えた。
 あの二人ならきっと乗り越えられるさという、統領ではない、バクー個人の祈りをのせて――。



                                           −続く−


アリャルカ二十二の秘宝やタロル・カード、
お気づきかと思いますが、タロットがモデルです。
二十二枚の大アルカナカードからヒントを得ましたが、
<予言師>等、それぞれの名前はオリジナルになっています。
何だかまた仕事がらみでHするのかという感じですが(笑)
うちのブランク兄貴は奥手なので(笑)、こうでもしないと中々・・・(中々、何(笑)。)
でも、普通に甘くHさせても描いててイマイチかな・・・? なんて思っちゃって・・・(^^;
(↑読むのは大好きです、念のためvv)
描き手の言うことを全然聞いてくれないブランク兄貴の手綱を引くのも
ある種の自虐的なやり甲斐と言うか快感が・・・(謎)。


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